産前プログラムの提供は、妊娠中のクライアントの身体と心の両面をサポートし、安心して前向きにお産に向き合えるよう寄り添い、お手伝いすることを目的としています。
妊娠・出産・産後の全体像
妊娠期間は、受胎から出産までおよそ40週間(前後あり)で、次の3つに分けられます。
- 妊娠初期(0〜12週)
- 妊娠中期(13〜26週)
- 妊娠後期(27〜40週・満期)
分娩には平均して約24時間かかり、出産後は約6週間が医学的な産後回復期とされています。

一般的に「妊娠9ヶ月に対して回復も9ヶ月かかる」と考えられています!
産前プログラム参加時期の考え方
産前プログラムは、新規クライアント・既存会員ともに妊娠16週以降から参加可能です。妊娠16週から満期までが産前プログラムの対象期間となります。
医師の許可について
妊娠中のクライアントは全員、例外なく、主治医などからエクササイズを継続または開始してよいという許可を得る必要があります。
この許可は一度きりではなく、妊娠中は定期的に医師の判断を確認します。通院しているマタニティ・クリニックでの判断で問題ありません。
妊娠中のエクササイズの禁忌
米国産婦人科学会(ACOG)は、ほとんどの女性にとって妊娠中のエクササイズは健康に良いとしていますが、母体と胎児の安全を最優先とし、妊娠の状態を個別に判断することを推奨しています。
そのため、妊娠中であってもエクササイズが推奨されない、または慎重な判断が必要なケースがあります。
エクササイズを行わないことが推奨される状態
以下の状態がある場合、エクササイズは行わないことが勧められています。
・母体の心疾患
・拘束性肺疾患
・子宮頸管不全
・多胎妊娠(早産のリスクがある場合)
・妊娠第2期、第3期における持続的な出血
・妊娠26週以降の前置胎盤
(胎盤が子宮口に近接、または覆っている状態で、早期剥離のリスクがある)
・現在の妊娠中での早産兆候、破水
・妊娠高血圧症
慎重な判断が必要とされる状態
以下の場合は、医師の判断を前提に、妊娠中の運動について慎重に検討されるべきとされています。
・重度の貧血
・未診断の心不整脈
・慢性気管支炎
・管理不良の1型糖尿病
・極度の病的肥満、または著しい低体重(BMI12以下)
・極端に身体を動かさない生活歴
・現在の妊娠で胎児の子宮内発育遅延がみられる場合
・管理不良の高血圧症、または子癇前症
・整形外科的な制限
・管理不良の発作性疾患
・管理不良の甲状腺疾患
・喫煙習慣がある場合
その他の重要な禁忌・注意症状
・過去に3回以上の流産歴がある
・顔や手の強いむくみ、視界のかすみを伴う重度の頭痛(子癇前症の可能性)
妊娠前の健康状態の重要性
クライアントの妊娠前の健康状態や既往歴は、妊娠中のエクササイズをどのように進めていくかを判断するうえで非常に重要です。
過去に問題があった場合は、必ず事前に把握しておく必要があります。
妊娠初期と流産リスクについて
確認された妊娠の約20%は、妊娠20週以前に流産に至ると推定されています(Henderson and MacDonald)。
流産の約80%は妊娠12週までに起こり、特に8〜14週が最も流産しやすい時期とされています。それ以降の流産は約1%とされています。
このような理由から、妊娠が比較的安定するとされる16週以降からプログラムを開始することが望ましいと考えられます。
妊娠第1期(0〜12週)にみられる心身の変化
妊娠第1期(0〜12週)にみられる心身の変化についてです。
身体的な変化
・強い眠気や疲労感を感じやすくなる
・つわり(吐き気、食欲不振、においに敏感になる など)が起こりやすい
・ホルモン変化による乳房の張りや痛み
・基礎体温の上昇やほてり感
・血圧の変化
・便秘が起こる可能性
・ホルモンの影響による空間認識の変化
・体重が少し増え、ウエスト周径が増加し始める
精神的な変化
・感情の起伏が大きくなりやすい
・不安感や緊張感が高まりやすい
・集中力が低下しやすい
・気分の落ち込みやイライラを感じることがある
・妊娠そのものや今後への戸惑い、心配が増える
靭帯弛緩と骨盤の安定性
妊娠中は、エストロゲン、プロゲステロン、リラキシンの分泌が増加し、全身の靭帯が弛緩します。
骨盤は輪状構造をしているため、一つの関節の可動性が変化すると、骨盤内の他の関節すべてに影響が及ぶという特徴があります。前方の骨盤の問題が、後方の骨盤機能障害によって引き起こされることもあります(Ostgard 1997)。
骨盤の安定性には2つの考え方があります。
フォーム・クロージャーは、骨盤の形状や構造そのものによる安定性を指します。
フォース・クロージャーは、骨盤周囲の筋肉によって得られる安定性を指します。
靭帯が弛緩することで、骨盤の安定はフォーム・クロージャーよりもフォース・クロージャーへの依存度が高くなります。骨盤を安定させる筋肉が関節に適切な圧縮力を与えることで、骨盤内の負荷伝達が安定するためです。

特に影響を受ける重要な靭帯として、仙結節靭帯と仙棘靭帯があります。
仙結節靭帯は、仙骨を外側方向に安定させ、大腿二頭筋と連結しています。
仙棘靭帯は、仙骨の外側方向およびねじれに対する安定性に関与し、尾骨に付着しながら内転筋と連結しています。
筋肉の長さを維持する目的でのストレッチは問題ありませんが、特に片側のハムストリングスや内転筋を過度にストレッチすることは、骨盤の不安定性を助長する可能性があるため注意が必要です。
脊柱は「動的な状態」になる
妊娠中の脊柱は固定された状態ではなく、常に動的な適応を求められます。
椎間関節や椎体が過剰に動きすぎることなく、バランスよく可動する状態が理想とされます。
基礎(アライメント・呼吸・センタリング)の重要性
妊娠は、女性の姿勢、固有受容感覚、呼吸、骨盤の安定性に劇的な影響を与えます。
そのため、妊娠期にはエクササイズの前提となる基礎要素を再考する必要があります。
姿勢の認識とアライメント
脊柱のアライメントや関節がニュートラルでない状態では、姿勢を安定させる筋肉が十分に働かず、問題や不調を引き起こす可能性があります。
この影響は、妊娠中に特に顕著になります。
ホルモンの影響により不安定性が増すと、本来安定性を担うインナーマッスルの代わりに、グローバル筋(大きな筋群)が過剰に働く傾向が見られます。
姿勢のアライメントが崩れると、安定筋群は十分に機能しません。
前かがみの姿勢は、腹横筋や骨盤底筋の働きを抑制し、吸気時に横隔膜が適切に下降することを妨げます(Dwyer)。
クライアントに背筋を伸ばし、まっすぐ座る・立つ方法を指導することは、インナーコアユニット(身体の中心軸)を機能させることにつながります。そのため、最初に良好なアライメントを教えることが重要です。
呼吸
腰椎・骨盤機能を回復・維持するためには、正しい横隔膜呼吸を指導することが不可欠です(D. Lee)。
下部胸郭と腹部に呼吸を送り込むように呼吸を拡大し、肋骨を動かしながら腹部をゆっくりと拡張します。
これは、ピラティスで用いられるラテラルブリージングに近い呼吸様式です。
※ラテラルブリージング:主に助骨下部の動きを意識した呼吸
センタリング ― コアの接続
深部筋を鍛える方法として、アイソメトリックエクササイズは有効とされていますが、それだけでは不十分です。
動的かつ機能的なエクササイズと組み合わせることが必要とされています。
Paul Hodgesは、筋肉の単なる活性化ではなく、動きを通して安定性を学習するスキルの重要性を示しています。
つまり、妊娠期のコアトレーニングでは、「止める」だけでなく、「動きの中で安定を教える」ことが求められます。
骨盤底の訓練
骨盤底のトレーニングでは、骨盤底の2つの層を動かすことが重要です。
一つは骨盤隔膜、もう一つは尿生殖隔膜です。
骨盤隔膜の深層は肛門挙筋によって形成されています。
肛門挙筋は一般的に「一つの筋肉(one muscle)」と説明されることが多いですが、実際には複数の筋から構成されています。

骨盤底筋へのキューイング
クライアントに「左右の坐骨を一緒に引き寄せるように」と指示することで、
肛門挙筋を含む深層の骨盤底筋群をターゲットにすることができます。
骨盤底筋トレーニングの重要性
骨盤底筋をコントロールすることは、以下の点において不可欠です。
そのため、骨盤底の訓練はできる限り早い段階から開始することが推奨されます。
・コアの安定性を保つ
・腹腔内圧の急激な上昇に抵抗する
・子宮脱を防ぐために骨盤内臓器をサポートする
・排尿・排便の随意的コントロールを維持する
・性的機能および快感の維持
・分娩時に赤ちゃんの回旋を助ける
骨盤底筋は、強すぎず・弱すぎず、適切な張力を保つことが重要です。
過緊張の場合、分娩時にリリースしづらくなるため、引き締めと同時にリリースの練習も不可欠です。
骨盤底筋を「3つのパート」で認識する
骨盤底筋は一つの面として捉えるのではなく、前方から後方へ3つのパートに分けて認識・コントロールすることが重要です。
- 前方:尿道周囲
排尿のコントロールに関与し、くしゃみや咳などによる腹圧上昇時の尿漏れ防止に重要な役割を担います。 - 中央:膣周囲
骨盤底全体の支持や安定性に関与し、妊娠中の内臓支持や分娩時の伸張・リリース能力とも深く関係します。 - 後方:肛門周囲
排便の随意調節に関与すると同時に、骨盤後方の安定性や仙骨周囲の支持に重要な役割を果たします。
この3つのパートを個別に働かせ、連動させながら使えるようになることが、機能的な骨盤底コントロールにつながります。
遅筋線維・速筋線維のトレーニング
骨盤底筋の機能向上には、遅筋線維と速筋線維の両方を鍛えることが重要です。
速筋線維
・骨盤底筋を瞬間的にキュッと引き締める
遅筋線維
・左右の坐骨を引き上げるように座るイメージで持続的に働かせる
筋肉が完全にリラックスできるよう、収縮の合間には約5秒間の休止を入れます。
骨盤底の解放(リリース)
骨盤底の解放は、妊娠初期から出産準備の一環として取り入れます。
・深い腹式呼吸は骨盤底の解放に役立つ
・骨盤底の引き締め動作を逆転させることも有効
例:ジップを閉めたところから開く、骨盤を開くイメージ
・「お花が開くように(フラワーオープニング)」などのイメージを使うことも有効
実践的アプローチ例
・左右の坐骨を寄せるように呼吸を続け、戻るときに自然に外へ広がるように戻る
・深層の骨盤底へのアプローチとして
後方(肛門側)から順に引き締め、約10秒キープ
その間も呼吸は継続し、前方から後方へ向かって徐々に緩めていく
骨盤底筋には複数のアプローチ方法を持っておくことが重要です。
指導上の重要ポイント
・骨盤底を「一気に全部締める」指導ではなく、前・中・後の順序や感覚を区別して伝える
・収縮だけでなく、それぞれのパートを意識的に緩める(リリースする)練習も必ず含める
・妊娠期は特に「コントロールできる=締められる+緩められる」状態を目指す

女性にとって、とても大事な骨盤底筋。
ですが、感覚を引き出すためには少し工夫が必要です。
3つのパートに分けて順番に意識したり開放する・イラストや模型、お花が開くなどのイメージを使うことで、骨盤底筋の感覚を引き出すお手伝いができます。
初めは分かりづらくても、徐々に感覚を掴めるようになります。
諦めず、根気良く取り組みましょう!
妊娠初期(0〜16週)のエクササイズ方針
妊娠前からクラスに参加しているクライアントについては、正常妊娠であり、かつ主治医よりエクササイズ継続の許可が得られている場合に限り、下記のガイドラインに沿って通常のルーティンを継続することが可能です。
- 妊娠初期はホルモンの影響により骨盤周辺の関節や靭帯が不安定になりやすいため、可動性よりも安定性を最優先とする。
- ロングレバー(テコの長さが長い)で可動域の大きいエクササイズは慎重に行う。
- 基礎を作る時期と捉え、安全性を重視する。
- クラス中だけでなく日常生活においても正しい姿勢が重要であることを強調する。
- 立位、座位、四つ這いなど各ポジションで骨盤と脊柱のニュートラルを指導する。
- 解放の動きを含めた骨盤底筋トレーニングを開始する。速筋線維・遅筋線維の両方をバランスよく取り入れる。
- 機能的なコア、特に骨盤を安定させるためのエクササイズを重点的に行う。
- 腹筋を使いすぎたり、伸ばしすぎたりしないように注意する。
- 長時間同じ姿勢を保つことや、長時間のストレッチは避ける。過度な圧力をかけないようにする。バンドを使用したハムストリングスストレッチには特に注意する。
- 恥骨結合部を圧迫する可能性のあるエクササイズに注意する。靭帯の弛緩により、恥骨結合が離開しやすいクライアントもいることを理解する。
- 仙腸関節、尾骨、腰椎が圧迫される可能性があるので、サポートのないRoll Back(ロールバック)は避ける。
- エクササイズは左右対称で行う。片脚立ちや座位でのハムストリングストレッチには注意する。
- 逆転ポジションは避ける。
例:Roll Over(ロールオーバー)、High Bridging(ハイブリッジ)、Small Spine Curls(スモールスパインカール)。
※Pelvic Curls(ペルビックカール)は可。 - 起立性低血圧を避けるため、立ち上がるときはゆっくり行う。
- 動かずに立っている状態を長時間保たない。
- 疲れさせすぎないことを意識し、こまめな水分補給を促す。
- クラスは清潔で健全な環境を確保する。インストラクター自身が体調不良の場合は妊婦を指導しない(妊娠中は妊婦の免疫機能が通常とは異なることを常に意識する)。
- 妊娠に関する情報は、本人の許可なく他者に共有しない。
妊娠第2期(13〜26週)にみられる心身の変化
- 妊娠14週以降は、流産のリスクが大幅に低下します。
- 子宮および乳房が徐々に大きくなり、体型の変化を感じ始めます。
- 円靭帯痛(子宮を支える靭帯が引き伸ばされることによる痛み)を感じる方もいます。
- 足が攣りやすくなることがあります。
- 主な原因として、血液量の増加、ミネラルバランスの変化、循環の変化などが考えられます。
- 血液量の増加に伴い、手足のむくみが出やすくなります。
- 「ベビーブレイン」と呼ばれるような、集中力や記憶力の低下、視覚的な認知の変化を感じることがあります。
仰臥位低血圧症候群
妊娠16週以降は、仰向け姿勢に注意が必要です。
仰向けになることで、増大した子宮が下大静脈を圧迫し、心臓へ戻る血液量が減少します。
その結果、血圧低下、めまい、吐き気、気分不良などが起こる可能性があります。
このため、妊娠16週以降は仰臥位は避けます。
代替として使えるポジションの例
・側臥位
・四つ這い
・ボルスターやクッションで上体を支えた姿勢
起立性低血圧について
- 起立性低血圧は、長時間じっと立っていることで血圧が下がり、めまいやふらつきが起こる状態です。
- 妊娠中は血管拡張や循環変化の影響により、起こりやすくなります。
- 長時間の静止立位は避け、姿勢をこまめに変えることが重要です。
- 立ち上がる際は、必ずゆっくり動くよう指導します。
関節の不安定性
妊娠第2期では、関節の不安定性がさらに顕著になります。
骨盤の可動性が最も大きく変化するのは、妊娠4〜7ヶ月の間とされています。
姿勢・重心・バランスの変化
姿勢や重心、バランスには個人差のある変化が現れます。
約75%の女性では、腰椎前弯が平坦化し、脊柱後弯が強調された姿勢となります。
この場合、体重負荷は主に腰仙関節および骨盤にかかります。
約25%の女性では、骨盤前傾が増加し、脊柱前弯が強まった姿勢となります。
この場合、椎体、椎間関節、椎間板に体重負荷が集中します(Leeming他, 1997)。
姿勢変化の現れ方は一人ひとり異なるため、クライアントを個別に観察し、プログラムをそれぞれのニーズに合わせて調整することが重要です。
ニュートラルとコア安定性の再訓練
すべての妊娠中の女性にとって、ニュートラルの再訓練とコアの安定性の改善は有益です。
妊娠により重心位置が変化すると、これまで経験したことのない「新しい重心の位置」で身体を使う必要が生じます。
そのため神経筋の協調性が低下し、反射が遅くなりやすく、結果としてバランス能力が低下します。
このような背景から、固有受容感覚(Proprioception)への意識を高めるエクササイズも有効です。

固有受容感覚とは、関節や筋肉の位置や動きを無意識に感じ取り、身体の位置関係や動きを把握する感覚のことです。
姿勢の安定やバランス調整、スムーズな動作のコントロールに欠かせない重要な感覚です!
上半身の変化
妊娠第2期以降は、胸椎後弯が強くなりやすくなります。
胸椎の可動性を保つためには、回旋エクササイズや呼吸エクササイズが有効です。

産後のエクササイズでは、妊娠中に広がった肋骨を閉じていくアプローチが重要になります!
特に腹斜筋など、肋骨のコントロールに関与する筋群へのエクササイズが必要となります。
円靭帯痛(Round Ligament Pain)
子宮の左右にある円靭帯は、恥骨に付着し、腹腔内に子宮が固定されるよう支えています。
円靭帯痛とは、妊娠の進行に伴い子宮が大きくなるにつれて、円靭帯が引き伸ばされることで生じる痛みです。
主に下腹部や鼠径部に鋭い痛みや引っ張られるような違和感として現れることがあり、体位変換や急な動作で感じやすくなります。
多くの場合は妊娠に伴う正常な変化の一つであり、病的なものではありませんが、痛みが強い場合や持続する場合は医師の確認が必要です。
腹部の健全性と腹直筋離開
腹直筋離開は、妊娠に伴って腹部が拡張することで起こる正常な構造的適応の一つであり、妊娠第3期の約6%の女性に見られるとされています。
腹直筋離開の現れ方には個人差が大きいため、クライアント一人ひとりの腹部の健全性を個別に評価することが重要です。
離開のリスクには、妊娠回数、体幹機能、姿勢、腹圧コントロールなど、複数の要因が関与します。
腹直筋離開が起こると、腹斜筋の引っ張る方向が変化します。
その結果、腹筋が本来担っている骨盤や脊柱をコントロールする機能が低下し、背部痛や骨盤周囲の痛みにつながる可能性があります。
腹直筋離開がある状態で強い腹筋運動を行うと、腹直筋が離開した位置で過剰に緊張したり短縮したりする、または筋の端がさらに引き離され、離開が悪化する可能性があります。
これにより腹部全体の支持力が低下し、ヘルニアが生じるリスクが高まります。
さらに、過度で不適切なトレーニングは、骨盤底筋群に下向きの圧力をかける可能性があり、腹直筋離開に対して表層から引き離す方向の負荷を与えてしまいます。
そのため、腹部と骨盤底を適切にサポートするためには、コアマッスルを十分に、かつ機能的に働かせることが不可欠です。
出産後、腹直筋は少なくとも12ヶ月間は機械的に弱い状態が続くと考えられています。
一般的に2cm以上の離開は「大きな離開」とみなされますが、離開の幅そのものよりも、体幹の安定性やコントロール能力がどの程度あるかが重要です。
2016年の女性の健康会議以降の新しいガイドラインでは、離開の幅ではなく、
クライアントがどの程度安定性とコントロールを獲得できているかに焦点を当てるべきとされています。
そのため、表層だけでなく、深層で適切なテンションを感じられる状態を作ることが重要になります。
腹直筋離開は、へその上から下、特にへその位置を中心に生じることが多く、へそより下の位置で起こるケースは比較的まれとされています。
中でもへその位置は構造的に最も弱く、離開が起こりやすい部位です。
一方で、妊娠前から腹筋が適切に鍛えられている女性では、腹直筋離開はあまり見られない傾向があります。
離開が重度になると、腹壁前面には皮膚、筋膜、皮下脂肪、腹膜のみが残る状態となり、腹部の支持力が著しく低下します。
重症の場合には、腹壁の離開部から腹部臓器が突出するヘルニアへ進行する可能性もあります。
ヘルニアが疑われる場合は、決して軽視せず、必ず医師の診察を受ける必要があります。

産後は腹直筋離開のチェックを推奨されていますが、妊娠中は腹直筋離開の検査は行うべきではありません。
- 妊娠16週以降は、仰臥位低血圧症候群のリスクを考慮する必要があります。そのため、ウェッジやボルスターなどで十分にサポートしない限り、仰臥位および半仰臥位での運動姿勢は避けてください。代替として、側臥位、四つ這い、座位、立位など、他のスターティングポジションを使用します。
- 長時間立ったまま静止することは避けるようにします。特に、腕を上げた状態で静止して立つことは、循環への負担が大きくなるため控えます。
- 起立性低血圧を防ぐため、エクササイズから次のエクササイズへ移行する際は、必ずゆっくりと行い、推奨されている安全な移行方法を用います。
- 負荷のかかった回旋や側屈のエクササイズには注意が必要です。ただし、日常生活に必要な自然な動きを維持すること自体は重要です。ここでいう負荷とは、オープンチェーンの状態で、体重が十分にサポートされていない動きを指します。
- 急激に方向や姿勢を変える動作は避け、常にコントロールされた動きを心がけます。
- 腹直筋離開が強い場合には、胴体の屈曲、回旋、側屈の動きには細心の注意が必要です。
- 不安定な面を使用したエクササイズ(バランスディスク等)や、腹筋を過度に伸ばすエクササイズ、プランクスタイルのエクササイズ(例:Front Leg Pull)は避けます。
- 腹直筋離開が広いクライアントに対して、四つ這い(Four Point Kneeling)を行う場合は、腹部が十分に支持されていることを必ず確認します。Table Top のような負荷を加えないようにし、手と足は床につけたまま、不要な骨盤前傾や腰椎伸展が起こらないよう注意します。
- 妊娠後期は靭帯弛緩が顕著になるため、オープンチェーンで手足の可動域を大きく使う動きや、ロングレバー(テコの長さが長い)エクササイズは避けます。
- ポジションやストレッチを長時間維持することも控えます。
- ハムストリングスや内転筋のストレッチは、慎重に取り入れてください。なお、靭帯弛緩は産後も約9か月間続く可能性があります。
- 恥骨結合を圧迫する可能性のあるエクササイズは避け、常に左右対称性を保つことを意識します。片側に体重負荷がかかるエクササイズは、仙腸関節や恥骨結合の不快症状を助長する可能性があるため注意が必要です。
- 妊娠後期は腹筋が疲れやすくなっていることを常に意識し、安定性を高めるエクササイズとリラックスを促すエクササイズを組み合わせます。休息時には、左側を下にした側臥位を勧めます。
- 足が攣りやすくなるため、ふくらはぎのストレッチ方法を指導し、カルシウムを十分に摂取するよう勧めます。妊娠中はカルシウムの吸収率が低下するため、必要量が増加します。足が攣った場合は、足首を背屈させることで症状が和らぐことがあります。
- 下肢の血行が悪くなりやすいため、脚への血流を妨げない、ゆったりとした服装を勧めます。
- 空気塞栓症を避けるため、心臓よりお尻が高くなるポジションは避けてください。
- 下肢循環を促す自然な方法として、ウォーキングや、四つ這いでゆっくり骨盤を揺らす動きを勧めます。四つ這いでの骨盤の揺らしは、消化や便秘の改善に役立つ可能性があり、出産準備としても有効な場合があります。
- 乳房が重くなることで上半身への負担が増えるため、肩甲骨を安定させるエクササイズをプログラムに取り入れます。
- 反復回数は多くしすぎないようにしましょう。
- 下肢のエクササイズを積極的に取り入れます。
- レッスン中は、肋骨の視認が難しくなるため、屈曲や伸展のポジションは胸骨の向きを基準に評価します。また、固有受容感覚への意識を高める指導を行います。
- エクササイズ中は、自然なリズムで呼吸を行わせます。
- 効率的な呼吸、リラクゼーションスキル、骨盤底の解放を促すため、多様な呼吸エクササイズを取り入れます。
- 骨盤底を強化するエクササイズは、妊娠後期も継続します。
〈避けるエクササイズ〉
・クライアントに対して適切な負荷でないエクササイズ
・心臓よりお尻が高くなるポジション
・片側に体重負荷がかかるエクササイズ
・負荷のかかった回旋や側屈のエクササイズ
・腹筋を過度に伸ばすエクササイズ
例)カールアップ、リフォーマーでのサイドベンド、シングルレッグストレッチ、ダブルレッグストレッチ、オブリークカール、プランクなど
〈慎重に行うエクササイズ〉
ハムストリングスや内転筋のストレッチ
妊娠第3期(27〜40週)にみられる心身の変化
- 子宮は肋骨の下まで大きくなり、体重もさらに増加します。
- ブラクストン・ヒックス収縮(前駆陣痛)を感じることがあります。
出産に備えた子宮の収縮で、子宮が硬くなり、生理痛のような不快感を伴うことがあります。
基本的には正常な反応ですが、エクササイズ後30分以上経っても収縮が続く場合は、医師の診察を受ける必要があります。 - 酸素の必要量が増加し、子宮の拡大によって胸郭や肺が圧迫されるため、息切れを起こしやすくなります。
赤ちゃんの頭が骨盤内に固定されると、これらの症状が軽減することもあります。 - 胎児の頭が下がってくることで、骨盤周囲の圧迫感や痛み、臀部の不快感が増します。
- 排尿回数が増え、尿路感染症や腹圧性尿失禁が起こりやすくなります。
これらの症状は、胎児の頭がさらに下降すると悪化することがあります。 - この時期に血圧が高くなることがあり、子癇前症の兆候である可能性もあるため、注意深く観察する必要があります。
- 血液量の増加およびホルモンの影響により、便秘や静脈瘤が起こりやすくなります。
- 妊娠中は血液量が最大で約40%増加するため体内の水分量も増え、足首のむくみはよく見られます。
顔や手に強いむくみが見られる場合は、必ず医師の診断を受けてください。 - 手根管症候群が見られることもあります。
- 鼻血や鼻づまり、こむら返り、気分の落ち込みや抑うつ傾向、妊娠糖尿病などの問題が生じることもあります。
- 乳房は非常に大きくなり、乳房の総重量が約800g増加することがあります。
リラキシンの影響により乳房を支える靭帯が伸張しやすくなるため、適切にサポートされたブラジャーの着用が重要です。
妊娠中の脊椎側弯症への配慮
クライアントに脊椎側弯症がある場合は、セッション内に呼吸のエクササイズを追加してください。
呼吸を通して胸郭の可動性と左右差への気づきを高めることは、姿勢の負担軽減に役立ちます。
筋骨格および姿勢の変化
姿勢の変化
妊娠が進むにつれて重くなった子宮が脊柱にさらなる負担をかけます。
また、エストロゲンの増加により靭帯が弛緩し、継続的な過可動性が生じやすくなります。
腰椎の湾曲変化、骨盤および仙腸関節の靭帯弛緩、筋力低下、特に腹筋による腰部支持機能の低下は、腰痛と強く関連します。
研究では、これらが産前・産後にみられる一般的な腰痛の主な原因であることが示されています。
骨盤帯痛(PGP:Pelvic Girdle Pain)
骨盤帯痛(PGP)は、骨盤に関連するすべての問題の総称であり、腰痛とは別に、または腰痛と併発して起こることがあります。
骨盤は輪状構造をしているため、一つの関節の可動性が変化すると、骨盤内の他の関節すべてに影響が及びます。
前方の骨盤の問題は、後方の骨盤(特に仙腸関節)の機能障害によって引き起こされることが多いとされています(Ostgaard)。
妊娠中の女性のおよそ5人に1人が、軽度の不快感から重度の機能障害を伴う痛みまで、何らかのPGPを経験するとされています。
多くの場合、出産後12週間以内に改善しますが(Elden)、一部ではPGPが持続し慢性化する可能性も示唆されています(Hansen)。
※PGPは医療的評価が必要です。
クライアントがPGPを訴えている場合は、必ず医師へ相談するようアドバイスしてください。
恥骨結合の機能不全
恥骨結合は、仙腸関節と比べて剪断力に非常に弱い関節です(Lee)。
その安定性は、仙腸関節の適切なアライメントと、周囲筋群によるフォース・クロージャーに大きく依存します。
悪化する可能性のある動作
・骨盤に不均等な圧力がかかる、非対称な脚の動き
・症状を我慢して動作を長引かせること(回復を遅らせる可能性があります)
・立位を含む、体重負荷のかかる活動全般(痛みを誘発することがあります)
恥骨結合の機能不全がある女性の多くは、脚を開く動作で痛みを感じます。
そのため初期段階では、脚を腰幅以上に開かないようにします。ただし、過度に動きを制限し続けることは望ましくありません。
Stugeは、骨盤を保護しすぎることで内転筋の緊張が長引く可能性を指摘しています。
・ベッドや車のシートから立ち上がる際も注意が必要です
・初期段階では、骨盤への意識と安定性を重視し、エクササイズは左右対称に行います
仙腸関節の痛み
仙腸関節由来の痛みは、両側性の場合もありますが、一般的には片側性であることが多く見られます。
また、非定型的な坐骨神経痛様症状を引き起こすこともあります。
尾骨(居骨)周囲の痛み
尾骨の痛みは、以前の出産に起因している場合があります。
尾骨は仙骨と仙尾関節でつながっており、経腟分娩中に赤ちゃんが産道を通る際、尾骨が後方へ押されることで、打撲や炎症を起こすことがあります。
注意すべき動作
・あぐらなど、身体の前で脚を組む姿勢、または足裏を合わせるポジションは避けます
・内転・外転いずれの場合も、脚の非対称な動きは避けます
・側臥位へ移行する動作には注意します
・立位および座位での回旋には特に注意し、負荷をかけた回旋や過度な圧迫は行いません
・マーメイドは避けます
・クラムは慎重に行います
骨盤帯痛がある場合の推奨エクササイズ例
(※医師からエクササイズの許可が出てから)
壁に背を向けて立ち壁と背中の間にジムボールを挟み、ジムボールに寄りかかったまま片脚への体重負荷を段階的に導入する
手根管症候群
手根管症候群は、むくみや体液うっ滞、血液量の増加により、手首(手根管)を通る正中神経が圧迫されることで起こります。
痛みやしびれとして現れ、特に睡眠後の朝に症状が悪化しやすいことが特徴です。
・手首を圧迫しないよう配慮しましょう。
・四つ這いは控える、もしくは手の付け根の下に丸めたタオルを置きます。
・手首保護手袋)の使用も有効です。
・手首の屈曲を繰り返す動作は避けましょう。
・正しい手と手首のアライメントを指導します。
・肩の構造や機能に問題があるケースも多いため、上肢全体を観察します。
・物を強くつかんだり、握り締めたりしないよう注意します。
・手首や指をやさしく動かすエクササイズを取り入れます。
呼吸の変化
妊娠が進むと、子宮が横隔膜を押し上げるため、下位肋骨は持ち上がり外側へ張り出します。
その影響で、胸の上部だけを使った浅い呼吸になりやすくなります。
胸郭や胸骨の硬さは、多くの女性にとって妊娠中も引き続き問題となります。
足部・重心の変化
重心位置が変化することで、体重は足の中央ではなく、かかと側にかかりやすくなります。
体重増加、靭帯弛緩、体液うっ滞が重なることで、縦アーチおよび中足部が平らになりやすくなります。
その結果、靴が合わなくなることがあり、サイズが大きく、幅の広い靴が必要になる場合があります。
足底筋膜炎
妊娠中にみられるかかとの痛みは、かかとの骨から前足部にかけて足裏を走る足底筋膜の損傷が原因であることがあります。
体重増加などにより軟部組織へ過剰な圧力がかかり、足底筋膜がかかとの骨に付着する部分で、痛みや腫れが生じやすくなります。
足首の問題
足首の捻挫、筋肉や腱の損傷、アキレス腱炎などの既往がある場合、妊娠中に再発するリスクが高くなります。
特に、階段や歩道の縁石を下りるとき、急な方向転換時に捻挫が起こりやすくなります。
足首の捻挫や膝蓋骨脱臼の既往があるクライアントは、転倒リスクが高いため特に慎重な対応が必要です。
・足、足首、膝、骨盤の正しいアライメント作りを行います。
・足首周囲の筋肉を強化します。
・可動性を保つエクササイズを取り入れます。
膝の問題
妊娠中は膝の痛みもよく見られます。
痛みは、座る、しゃがむ、立ち上がるなど、膝を屈曲する動作時に前面に出やすく、階段を下りるときに悪化することが多くあります。
主な原因として、以下が挙げられます。
・ホルモン変化による膝蓋骨関節軟骨の軟化
・体重増加
・靭帯弛緩
・姿勢変化
・外側筋と内側筋の間の大腿四頭筋の不均衡
指導上の注意点は以下の通りです。
・膝の屈曲運動を繰り返しすぎないようにします。
・体重の増えすぎに注意します。
・大腿四頭筋、特に内側広筋の強化を行います。
・膝関節を圧迫しないようにします(レストポジション、チャイルドポーズ)
・敏捷性の高い動きは避けます
・痛みを引き起こすポジションは避けます(四つ這いなど)
・スクワットは正しいアライメントで行い、深いスクワットは避けます
・ランジやスクワットでは、膝がつま先より前に出ないようにします
・膝の過伸展を避けます。
妊娠を2回以上経験している女性は、約50%の確率で腹圧性尿失禁を経験するとされています。
これは分娩方法に関わらず、妊娠そのものが尿失禁のリスクを高めることが示唆されています(Toozs-Hobson他)。
骨盤底筋、特に肛門挙筋には、遅筋線維と速筋線維の両方が存在します(Jozwik & Jozwik)。
肛門挙筋のおよそ65%は遅筋線維で構成されており、主に安定化を担います。これらの筋線維は、骨盤内臓器に適切な緊張とサポートを提供し、膀胱頸部を最適な角度に保つ役割を果たします。
残りの約35%は速筋線維で構成されており、くしゃみや咳などによる腹腔内圧の急激な上昇に対抗するために不可欠です。これらの筋線維は、尿もれを防ぐために膀胱頸部を瞬間的に持ち上げるように収縮します。
姿勢や呼吸が骨盤底機能に大きく影響することを常に意識する必要があります。
妊娠初期から引き続き、アライメント、呼吸、センタリングといった基礎的要素を大切にすることが重要です。
骨盤底筋の収縮および弛緩を組み合わせたエクササイズは、妊娠の最終段階まで継続すべきとされています(British Medical Journal)。

言葉による指示のみで骨盤底筋収縮を正しく行える女性は、50%未満であると言われています。
そのため、指導の際にはイメージ図、小道具、触覚的・視覚的な補助、専門的な知識を積極的に活用しましょう!
妊娠後期におけるエクササイズ方針
妊娠後期になると、出産日が近づくにつれて腹部の膨らみにより動きが制限されることがあります。
常に快適な範囲内で動くことを最優先とし、必要に応じて十分なサポートを提供してください。
仰向けで平らに横たわる姿勢は避け、妊娠スロープやウェッジを使用することが勧められます。
基本的には妊娠第2期のエクササイズ方針をすべて継続したうえで、以下の点を追加で考慮します。
- 疲れすぎないよう、エクササイズ内容や休憩時間を適宜調整します。
- 分娩準備のためのエクササイズを取り入れます。
具体的には、呼吸と連動した骨盤底の解放、股関節の屈曲・外転を含む動き、重力を活かしたポジションでのリラクゼーションなどが挙げられます。 - 助産師から、股関節を屈曲・外転させる動きを勧められることがあります。
そのため、股関節の可動性、外転筋の筋力、内転筋の十分な長さを確保することが重要です。
股関節を安全に動かし、筋力を維持・向上させることで、これらのポジションを支える力を養います。 - 姿勢を整え、背中をまっすぐに保ち、前方に体を開く姿勢や四つん這いなどのポジションを使用することで、赤ちゃんがより良い胎位へ移行しやすいスペースが生まれます。
- 骨盤出口を開く目的でスクワットを取り入れますが、深くなりすぎないよう注意します。
妊娠35週以降に逆子や他の非生理的な胎位が確認されている場合は、必ず助産師の助言に従ってください
静脈瘤がある場合は、スクワットの強度や時間に特に注意します。 - いきむ動作の練習として、顎を軽く引いた状態で首のうなずき(チン・タック)を行うことがあります。
- 実際に想定される出産ポジションを用い、解放の動きを含めた骨盤底エクササイズを行います。
- リラクゼーションエクササイズを多く取り入れます。左側を下にした側臥位で横になり、腹部にはクッションなどで十分なサポートを行います。
- 呼吸を用いて全身の緊張を解くことに集中します。これは痛みの軽減にも役立ちます。
- この時期、側臥位でのエクササイズは非常に有効ですが、骨盤帯痛がある場合は注意が必要です。必要に応じて追加のサポートを行います。
- 仙腸関節に問題がある場合は、立位および座位での回旋動作や、過度に負荷のかかる回旋には注意します。
- 下肢帯、特に仙腸関節に痛みがある場合は、あぐら座、体の前で脚を組む姿勢、足裏を合わせるポジションは避けます。
- 仙腸関節に問題がある場合、内転・外転時に脚を非対称に動かすことは避けます。
- 恥骨結合の機能不全が見られる場合は、脚を腰幅以上に開かないようにします。
- 手根管症候群がある場合は、ステップを使用して前腕を休める、または丸めたタオルで手首をサポートします。
- 下肢の血行を促すため、ふくらはぎのポンプ作用を活かした動き(その場での足踏みなど)を取り入れます。
- 足首および足部のエクササイズを十分に行います。
- ブラクストン・ヒックス収縮(前駆陣痛)が起こっている状態では、エクササイズの継続は困難になります。まれに腹部を引き込む動きが引き金となることもあります
収縮が30分以上続く場合は、医療機関での診察を勧めてください。 - 消化不良や胸焼けがある場合、エクササイズポジションの変更が必要になることがあります。クラスの時間を食事前に設定することも一つの方法です。
- ポジティブな言葉かけ、励まし、安心感を十分に与えることを心がけます。
- 妊娠後期は、めまい、失神、吐き気が起こりやすいため、インストラクターは最新のCPR資格を保持していることが推奨されます。
- 空気塞栓症は非常にまれですが、出血など胎盤剥離の兆候がある妊婦では、わずかなリスクが考えられます。基本的に、空気が膣内に吸い込まれる可能性のある動きやポジションは避けます。
例として、レストポジション、四つん這い、Knee to Chest からの急な起き上がりなどがあります。
お尻を高くした状態で子宮が上方に動くと、圧力変化により空気が膣や子宮に吸い込まれ、胎盤の傷口から循環系へ入る可能性があります。
分娩間近の時期について
医師または助産師のアドバイスに従いましょう。
ピラティス講師は医療判断を行う立場ではなく、お母さんを支えるサポートチームの一員として関わることが大切です。
胎児の最適な位置(Optimum Foetal Positioning)
姿勢が崩れ、身体の前方スペースが狭くなると、赤ちゃんが動き回るための空間が不足します。
その結果、出産に適した胎位を整えにくくなり、赤ちゃんが骨盤の後方で横向きになる可能性があります。
胎児の最適な位置を促すエクササイズ・姿勢
スクワット
スクワットは、坐骨を開き、仙骨を自由に動かすことで、赤ちゃんが骨盤内で動きやすい環境を作ります。
ただし、妊娠35週以降に逆子、または不自然な胎位が確認されている場合は注意が必要です。
赤ちゃんのお尻や足が骨盤入口に入り込むのを避けるため、スクワットを行わないよう医師や助産師から指示されることがあります。
必ず医療者のアドバイスを確認してください。
リラクゼーションと呼吸
リラクゼーションと呼吸は、練習によって身につけることができるスキルです。
分娩が長引いた場合でも、お母さんがリラックスできていれば、子宮はより効率的に働くことができます。
呼吸は、心を集中させ落ち着かせるだけでなく、痛みのコントロールにも役立ちます。
クラスでは、呼吸とともに緊張を解く練習を十分に行いましょう。
クラス中に注意すべき徴候
(見られた場合はエクササイズを中止し、速やかに医師・助産師への連絡を勧める)
・6〜8時間以上続く子宮収縮
・出産予定日がまだ先なのに、強い子宮収縮がある場合
・破水
・お母さんが膣内に何か触れる、または異物感に気づいた場合、へその緒(臍帯脱出)の可能性がある
この場合は、直ちに救急車を呼ぶ
・腹部、背中、骨盤、鼠径部、臀部、脚の痛み
・鮮血のおりものや出血、羊水の漏れ
・息切れ、胸の痛み
・持続するめまい、失神、吐き気
・動悸、頻脈(心拍が非常に速い状態)
・不整脈
・恥骨痛
・歩行困難
・激しい頭痛、または視覚障害
・発熱
・極度の疲労感、貧血の兆候
・胎児の動きが確認できない
(キックを数え、通常のパターンと違いがあれば助産師に連絡するよう勧めます)
・エクササイズ終了後も脈圧が高い状態が続く
・ふくらはぎの腫れ、痛み、圧痛(深部静脈血栓症の可能性)
・手や顔の強いむくみ
その他のアドバイス
・交通量が多く、空気汚染の強い場所は避けるよう勧めてください
・屋外で歩行や運動を行う場合は、行き先と帰宅予定時間を誰かに伝えるよう指導します
産前ピラティス・プログラムのメリットまとめ
- 講師として、女性が自身の身体を理解し、妊娠に伴う多くの変化を理解できるようサポートすることができます。
単に知識として学ぶだけでなく、実際に体験し、感じる機会を提供することができます。 - 分娩と出産に向けて、精神的・肉体的の両面から準備を整えることができます。
妊娠・出産・母であることの要求に対処できるよう、お母さんの自信を育てることに役立ちます。 - セッションを通して、お母さんがリラックスし、落ち着き、前向きな気持ちを保つことを助けます。ストレスや不安の軽減につながります。
- 姿勢の改善を促し、妊娠中によく見られる一般的な痛みの軽減に役立ちます。
- 腰椎、骨盤、肩甲骨、頸椎を含むコアの安定性を向上させます。
- 身体力学を修正し、「どのように動くべきか」「どの筋肉を使うべきか」という身体意識を高めます。
- 骨盤の解剖学的理解を深め、骨盤の位置に対する固有受容感覚の意識向上をサポートします。
- コーディネーションとバランス能力を向上させます。
- 妊娠後期に増加する体重負荷や循環の変化に備え、身体の準備を整えます。
- 靭帯弛緩によって起こりやすい関節トラブルの予防に役立ちます。
例:腰痛、仙腸関節痛、恥骨結合痛など。 - 腹部の機能を維持し、腹直筋離開の予防および回復を助けます。
- 姿勢の改善は、赤ちゃんが胎児の最適な位置(Optimum Foetal Position)へ移動しやすい環境を作ります。
- 陣痛時に役立つ姿勢を指導し、UFOポジションに関連する筋群を強化します。
UFOポジション:UFOポジションとは、**U=Upright(上体が起きている)、F=Forward(体幹がわずかに前方へ向く)、O=Open(骨盤が開いている)**状態を指します。
重力を活かしながら呼吸を妨げず、骨盤底を解放しやすい姿勢で、赤ちゃんの回旋と下降を助けます。
分娩時の立位・座位・四つん這いなどに共通する、身体の使い方の原則です。 - 妊娠・出産をより快適に過ごすためのリラクゼーションスキルを高めます。
- 出産時の子宮収縮による痛みの管理に、呼吸法を活用する意識を高めます。
- 改善された呼吸技術は、お母さんと赤ちゃん双方の酸素摂取量の向上に役立ちます。
- 便秘の軽減につながります。
- 睡眠の質を改善します。
- お母さんを分娩と出産に向けて、身体的に「フィット」な状態へ導きます。
- 出産時にコントロールできる骨盤底を整え、ストレス性・切迫性尿失禁の予防に役立ちます。
- 育児や授乳に備え、上半身の準備を整えます。
- お母さんの美しさを保つことをサポートし、出産後に身体が元の状態へ戻る助けとなります。
- ボディイメージ(ポジティブな自己認識)を高め、肯定的な思考につながります。
- 安全で協力的、安心感のあるエクササイズ環境を提供することができます。
産前プログラム例
産前のケース別レッスンプログラム例です。参考にしてください。
骨盤底問題のあるクライアント向け
準備パート
- 四つ這いや座位での呼吸
- サイドベンド(タワーでプッシュスルーバー使用)
メインパート
- タワー ショルダープレス(プッシュスルーバー使用)
- タワー ローイング
- キャットストレッチタワー
- リフォーマー 半仰臥位でのフットワーク※ウェッジ使用
- リフォーマー ストマックマッサージ/ストレートバック ※バランスボールを背中に置いて行う
- マット 4ポイント レッグアンドアームリーチ
最終パート
- イブズランジ
- 1番ショルダーローテーション
- 1番プリエ&ルルベ(骨盤底筋を意識して行う) ※バー使用
骨盤帯痛のあるクライアント向け
準備パート
- バランスボールバックエクステンション アームサークルズ ※背中と壁の間にバランスボールを置く、またはインストレクターが後ろからボールを固定する
- 半仰臥位 リブケージクロージャー、アームサークルズ
メインパート
- マット 両足ニーリング サイドリーチ、ウエストツイスト
- リフォーマー チェストエクスパンション、ローイング、ハグアトゥリー ※ボックスに座って行う
- リフォーマー 四つ這いバックキック ※安全上、片足の接地面を広げるためジャンプボード使用
- プランク マット
- チェアー ワンアームプッシュプランク
最終パート
- 立位サイドベンド、ウエストツイスト ※恥骨結合の機能不全がある場合、足のスタンスは坐骨幅以上に開かない
- タワー1番プリエ ※ベッドの上ではなく床の上で、プッシュスルーバー使用
- タワーパラレルルルベ ※ベッドの上ではなく床の上で、プッシュスルーバー使用
腹直筋離開のあるクライアント向け
準備パート
- バランスボール ペルビックティルト
- バランスボールプッシュ(座位で両手でボールを軽く抑えたままエロンゲーションを意識して呼吸)
メインパート
- チェアーレッグパンプス&バリエーション
- チェアー シーティッドトライセプス
- リフォーマー 側臥位 シングルレッグベンド&ストレッチ
- リフォーマー 側臥位 シングルレッグアダクション・フロント&バック
- タワーレッグシリーズ※ウェッジ使用
- タワーサイドシリーズ※頭の下とお腹の下に枕使用
最終パート
- スタンディングレッグパンプス/軸足ルルベ
- プリエwithピラティスボール ※ピラティスボールを両手で挟みながら行う
- タンジュ 前・横・後 バー使用

産前ピラティスは、エクササイズを教えること以上に、女性が自分の身体を信頼し、安心して妊娠・出産に向き合えるよう支える大切な役割があります。
インストラクターの皆さんの丁寧な声かけやサポートが、お母さんの自信と心の安定につながります。
同じ妊婦であっても心身の状態は一人ひとり異なるため、よく観察し、その違いを大切にしながら寄り添い、前向きな出産をサポートしていきましょう!